ホーム  >  県議会報告  > 平成29年9月定例会 決算特別委員会(農林水産部(林業・水産業関係)(平成29年10月19日(木))

県議会報告

平成29年9月定例会 決算特別委員会(農林水産部(林業・水産業関係)(平成29年10月19日(木))

2017.10.21

1 原発事故に伴う原木しいたけ関係の賠償請求について

(1)損害賠償の支払状況について

 今月初めに会派を超えた委員の先生方と原木しいたけ生産者、賠償請求されている団体・弁護士の皆さんと意見交換を行った。県から頂いた資料によれば,原木しいたけ関係の損害賠償の支払率が,JAグループ協議会96.0%,森林組合系協議会99.4%とされている。しかし,請求額の段階ですべての損害を請求できていなければ,支払率を算定する際の分母である請求額が小さくなり,支払率も大きくなることになる。28年度までの原発事故に伴う原木しいたけ関係の損害賠償支払状況は如何に。全ての損害が請求されているか。

 東京電力への賠償請求額は、平成28年度末現在で総額50億6,744万円、これに対する支払額は49億3,698万円、支払率は97.4%となっている。
 賠償ごとの請求状況ですが、原木が調達ができずに植菌できなかったことによる逸失利益である「植菌断念」と、原木の価格高騰分である「原木掛り増し」については、平成26年植菌分から支払が滞っているほか、一部の請求が遅れている。

(2)植菌断念に係る損害について

 植菌断念に係る損害については、25年植菌断念分までしか支払済となっていない。26年以降分についても支払われる見込みはあるのか。他団体の賠償請求においては,東京電力が,平成26年以降は原木の需給状況が回復しており,植菌断念に係る損害は認められないとの主張をしているということであるが、平成26年以降分についても支払われる見込みはあるのか。

 県内の各損害賠償対策協議会と東京電力との間で、先般、賠償の考え方について合意したと確認しており、今後、各協議会からの請求、東京電力からの支払いが順次進んでいくものと考えている。

(3)原木かかり増しに係る損害賠償の遅れについて

 原木かかり増しに係る損害については,JAグループ協議会は平成26年植菌分、森林組合系協議会は平成25年植菌分までと,請求そのものが他の損害項目に比べて遅れている。その理由は如何に。
 原木が高騰しているので、借り入れで原木を仕入れる場合も多いと聞く。万が一かかりまし請求が突然なくなると借入金の返済に支障が出る場合がある。また、どこまで請求して支払われているかわからない、どの部分に対する賠償金額か内訳が不明であるため、資金計画が立てられないとの声を聞く。

 遅れの理由は、震災前に、自ら原木林を伐採し、原木を調達していた生産者に対し、東京電力が、伐採予定の原木林が指標値を超過して使用できない状況を証明するよう求めていた。生産者は、出荷制限地域の原木を使うことはできないということで、原木検査を行っていない状況であり、証明資料の提出ができずにいたことから、遅れが生じていたもの。
 この状況を打開するため、県では、生産者に求めた証明資料の代わりに、県が保有する各地域の原木検査のデータを東京電力に提供したところ。それを踏まえ、本年7月に賠償枠組みの合意に至ったところであり、原木掛かり増しにかかる賠償につきましても、順次、請求と支払いが進んでいくと考えている。

(4)賠償の解決方法について

 組織的に賠償請求を行う場合,請求内容に争いがない請求者と争いがある請求者が出てくることが予想される。そして,争いがある請求者の存在により,全体の賠償請求が停止することも考えられる。そこで,争いがない請求者については,組織的な請求の枠組み内で合意するとしても,争いがある請求者については,ADRに切り出す等して,全体の賠償手続の早期化を図るべきではないか。

 損害賠償対策協議会による団体賠償請求に合意した内容に納得できない生産者がいる場合は、個人賠償請求という形でADRを活用することも、解決方法の一つと考えられる。これまでのところ、県内の各協議会の賠償請求において、ADRで争っている案件はないと聞いているが、引き続き、各協議会の取組状況などを定期的に把握しながら、賠償の枠組に異論等のある生産者がいる場合には、個別にその状況を確認し、対応していきたい。

(5)東京電力の賠償終了の可能性について

 原発事故被害は続いている一方で、近々、東京電力への直接請求が終了する可能性がある。その場合の、対応策を考えるべきではないか。

 平成28年12月に、東京電力から「平成29年1月以降の損害賠償案」について説明を受けた際に、損害のある限り賠償するという方針に変更はない旨を確認している。万が一にも、東京電力が賠償請求の終了を表明する事態が生じた場合には、県内の各損害賠償対策協議会、他県等の関係自治体とも連携し、損害が発生する限り賠償に応じるよう、東京電力に求めていくとともに、国に対しても、東京電力に対する指導等を求めていく。

2 原発事故に伴う原木しいたけの振興策について

(1)損害賠償請求の県の対応について

 生産者によって差があるものの、多くの生産者は、事故前と比べ、原発事故が原因での追加的な費用(人件費を含む)がかかっているが、その多くは賠償されていない。原発事故に関する原木しいたけへの悪影響は多種多様で複雑である。被害があっても損害賠償請求をしても認められないもの(出荷制限地域以外の地域を含めた放射性物質低減栽培の実施費用、原発事故被害対策会議費用、損害賠償請求に関する事務費用、他)もある。支払いの進捗にも差が出ている状況にあるため、JAグループ協議会、森林組合系協議会に対し事務手続き助成を検討するなど、原木しいたけの振興を考えた場合、こうした目に見えない追加的費用を補う施策を行ってはどうか。

 県では、各損害賠償対策協議会にアドバイザーとして参画し、助言等を行うとともに、懸案事項等がある場合には、県として東京電力と直接交渉する等協議会による賠償請求が円滑に進むよう支援をしてきたところ。協議会に対するさらなる支援については、各協議会の意見を伺いながら検討していく。

(2)規模拡大に関する支援への対応について

 現状の東京電力賠償スキームは、規模拡大(後継者就農他)や新規就農の場合などは賠償請求の対象となりにくい。何らかの対策がない限り、今後、岩手県の原木しいたけは縮小せざるをえない。実際、震災前に比べ原木しいたけ生産者及び植菌本数とも4割程度減少している実情にある。生産者の損害買収事務手続きの遅れは、今まで長年積み上げてきた岩手の森林王国、しいたけ王国としての基盤が崩れるということに繋がる。中山間地の重要な産業である原木しいたけが、今後、衰退しないようにこのような規模拡大に関する支援を行ってはどうか。

 県では、現在、国庫補助制度を活用し、原木等の生産資材、簡易ハウスなどの整備を支援するとともに、新規参入者に対しては、市町村と連携し、種駒購入を支援している。一方、規模拡大に向けては、原木価格の高騰、掛かり増し経費への対応が課題となっているほか、生産者を増やしていくことについては、新規参入者の確保に向けて、生産者や集出荷団体と連携し、技術習得等を支援していく地域ぐるみでの取り組みも必要と考えている。
 引き続き、生産者や関係団体等の意見も伺いながら関係者が一体となって生産拡大に取り組んでいけるよう、支援、検討を進めていきたい。

(3)生産者の資金繰りへの対応について

 現行の損害賠償請求は、支払いがあったとしても被害が生じてから半年~1年以上遅れるので、被害者は資金繰りに困る場合がある。対策を講じるべきではないか。

 県では、東京電力から賠償金が支払われるまでの間、集出荷団体を通じて無利子の「原木しいたけ経営緊急支援資金」の貸付けを行っている。この融資制度は、これまで賠償請求額の全額に対応できない課題があったことから、生産者からの強い要望を踏まえ、全額を融資できるよう、上限額の見直しを含め、10月17日に制度改正を行ったところ。引き続き、融資制度や国庫補助制度を活用してながら、生産者が安心して再生産に取り組んでいただけるよう、支援していく。