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ILC誘致に係る欧州視察調査(CERN、DESY調査)
2017.10.30
1 調査目的
日本政府によるILC誘致判断の表明が来年夏までと言われる中、受け入れ態勢に係る取組み・施策立案を適切に行う必要があることから、研究機関や地元自治体の取組みを調査。
2 視察先
CERN(欧州原子核研究機構)、DESY(ドイツ電子シンクロトロン) 、プレヴサンモエン市、フェルニーヴォルテール市他
3 調査期間
平成29年8月20日(日)~26日(土)4泊7日
4 主な行程
第1日 8月20日 羽田空港集合
第2日 8月21日 羽田空港発⇒フランクフルト経由⇒ジュネーブ着、プレヴサンモエン市調査(市長等との意見交換)、フェルニーヴォルテール市調査(市長等との意見交換)
第3日 8月22日 CERN調査(研究施設、研究者との意見交換)
第4日 8月23日 ジュネーブ国際機関等調査 ジュネーブ発⇒チューリッヒ経由⇒ハンブルグ着
第5日 8月24日 DESY調査(研究施設、研究者との意見交換)
第6日 8月25日 ハンブルグ発⇒フランクフルト経由⇒羽田行
第7日 8月26日 羽田空港着
5 調査所感と提言(詳細の調査報告は別途予定)
(1) ILCは岩手に何をもたらすか、意義は何かを改めて知る
○日本政府の決断が迫られる重大な局面を迎える今、改めてILCは岩手に何をもたらすのか、意義は何かを地球目線で確認する有意義な訪欧であった。多くの研究者との意見交換を通じて学んだことは、岩手にとって、日本の、アジアの、世界の国際学術研究都市として誕生するインパクトであり、真の国際化・世界と直接繋がること、未来の人類の様々な問題解決に大きく貢献できるということである。
○この基盤は、私が東北大学時代の昭和62年に発足した「東北インテリジェントコスモス構想」につながる。同構想は、「東北地方全体が日本の頭脳と産業開発の拠点」を目指した取り組みであり、工藤知事の時代から今日に至る。今から1000年前に藤原氏が平泉文化を築き、平成の今、宮沢賢治の精神が息づく岩手の大地に銀河宇宙の神秘を解明する新たな拠点を誕生させ、科学技術の力で地球規模の問題解決に貢献できる大きな意義を有していることを実感した。
○ILC誘致は、経済波及効果の視点からその意義が語られる。経済波及効果は生産誘発額4.5兆円、雇用を25.5万人とも試算されるが、経済的側面のみではなく、インターネットのWWW、医療分野の粒子線がん治療装置やX線透過装置といった新技術が誕生する等、ものづくり産業や医療・福祉分野、教育、文化、暮らしなど幅広い分野にイノベーションが起きる可能性を秘めている。
○山本客員教授の「日本が果たす役割は重要、経済成長が閉塞状況にある中、学術、文化、教育の面で世界をリードする責務、そういうポテンシャルがある。基礎研究が応用研究に、次世代の子どもにつなぐ意義は大きい。100年先は学問として残るが10年先の今やるべきことをやる」との言葉が心に残る。
(2) 我々は今何をすべきか、どんな準備をすべきか(提言)
○世界の物理学者の多くが日本政府の決断を待っていることを改めて実感。政府は来年度予算の概算要求で前年の倍近い予算要求をしたが、関係者と緊密な連携を図りながら、政府決断を促す運動を展開。
○ILC誘致はグローバルプロジェクトであり、参加国との連携役割分担が重要。そのため、今できる準備を想定し、国や関係機関と内々に情報共有しながら地元自治体としてやるべきことを調査研究。具体的には、土地利用計画や施設整備計画、用地取得や権利設定、資材搬入ルートの確保を含めた道路整備計画、生活拠点と研究施設を繋ぐ交通体系(トラムやカーシェアリング等)のあり方など。
○視察先で感じたことは、プロジェクト実現において「住民への情報公開」を重要視していること。建設候補地周辺の鳥類や植生調査、水文調査、地質調査等に関する調査結果を原則情報公開するとともに、掘削土処理や景観対策、研究施設候補地の環境影響調査結果についても情報開示に努めること。
○県や自治体の役割は、多様性を受け入れる『繋ぐ役割』が大切とのアドバイスを頂いた。海外の研究者ニーズは多様であり、何かに特化するのではなく、地域センターや相談できる場所の整備、地域文化として受入れる環境づくりが重要。特にも、最初の生活を立上げる支援(不動産紹介や電化製品や家具の購入、運転免許取得支援等)が重要。国際交流協会等が実施していた『ビッグブラザーズ・シスターズ』の取組みのほか、生活の立上げ支援は復興のノウハウを生かすべき。
セルンの研究者は20代~30代が多く、滞在期間は2~5年程度、家族同伴での来日が予測されるため、生活環境の支援(保育所、医療、教育、配偶者の職も重要な課題)の調査研究が重要。
○ILCと地域が共存すること、住民理解が得られることが重要。セルンやディズィーとも研究施設の一般公開や住民説明会を積極的に行うほか、自転車道路や遊歩道の整備など住民が来られやすいオープンラボの取組み等を通じて、関心を高める多様な取組みを行うべき。
結びに、ILCが岩手・東北の農林水産業・ものづくり産業をはじめとする科学技術の「知の拠点エリア」となり、国内産業構造改革のみならず、世界の文化・経済の発展に寄与することを期待する。