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県議会報告

平成29年度9月定例会 決算特別委員会(総括質疑) (平成29年10月12日(木))

2017.10.16

1 平成28年度決算の状況について

(1)財政運営について

 無所属の臼澤勉でございます。
 28年度の決算審査に当たり、お尋ねいたします。
 はじめに、財政運営についてお伺いします。28年度県の県債残高は減少し、プライマリーバランスは黒字を保つなど、実質公債費比率の適正化に向けた財政運営が図られていると評価しております。そろそろ将来を見据えたふるさと創生、国土強靭化、観光振興を意識しアクセルを踏む時期かと思います。
 知事就任して10年目の区切りの年である平成28年度決算をどう総括し、来年度以降の予算編成に反映させていくのか、知事のご所見を伺います。

(知事)平成28年度は、東日本大震災津波からの復旧・復興や「希望郷いわて国体・いわて大会」の開催、ふるさと振興の推進に県の総力を挙げて取り組んだところであります。

 事業実施に当たっては、あらゆる歳入確保に努めましたほか、施策の優先度を見極め、限られた財源の選択と集中を図り、また、公債費負担適正化計画に掲げる取組などによって、実質公債費比率が前年度から1.0ポイント低下しましたほか、プライマリーバランスについても6年連続で黒字となり、県債残高も着実に減少するなど、復興とふるさと振興の推進と財政健全化の取組の両立を図って参りました。

 平成30年度の予算編成に当たりましても、まず、東日本大震災津波からの復旧・復興に係る事業について、引き続き、最優先で取り組んで参ります。
 同時に、厳しい財政環境の中、地方創生推進交付金などあらゆる財源を活用し、「いわて県民計画」の総仕上げを図るとともに、次期総合計画を見据えた施策についても先行して取り組むことができるよう事業立案を指示したところです。

 財政運営に当たっては、引き続き財政健全化に留意しつつ、一部経費についてマイナスシーリングを継続いたしますが、公共事業については、前年度同規模の予算を確保するという基準を示したところでありまして、今後、震災対応予算の縮小が見込まれる中、公債費負担適正化計画の2年前倒しでの達成見込みも踏まえて、公共事業のあり方についても検討して参ります。

(2)組織運営について

 次に、組織運営についてお伺いします。
 28年度歳出決算における人件費の割合は17.6%、東北6県の中で福島県に次いで2番目に低い状況となっております。
 県の総職員数は、10年前に比べ7.5%減少しております。
 特に、獣医師と農業等普及指導員の減少率は高く、それぞれ18.3%、22%となっており、県内の農業産出額の減少の推移と類似の下降線を描いております。
また、教員部門は13.8%減であり、一般行政部門の減少率の倍の規模となっております。
 農業、教育、ふるさと振興といった目の前の課題解決に向け、職員数の増に向け検討すべきと考えますが、28年度の決算を踏まえ、今後どのようにするお考えか、知事のご所見を伺います。

(知事)組織運営についてでありますが、東日本大震災津波の発災以降、復興やふるさと振興などの県政課題に対応するため、新規採用職員を大幅に増やしてきたほか、任期付職員や再任用職員の採用、全国の都道府県等からの応援職員の受入れ、任期付職員経験者の任期の定めのない職員への採用など、多様な方策により人材の確保に努め、知事部局においては、震災発災以前の体制から400人程度の増員を図ってきたところです。

 今後の県の組織体制については、次期総合計画を策定していく中で、今後10年間の県の政策推進の方向性や具体的な取組内容等を見据え、職員規模を含めた組織のあり方について検討していきます。

 引き続き、様々な行政需要に対応するマンパワーの確保に努めるとともに、重要課題に財源や人的資源を配分し、より一層、事業の効率化や重点化を図りながら、様々な県政課題に柔軟かつ適切に対応できる体制を構築していきます。

2 ILC推進について

(1)誘致活動の成果とシナリオについて

 次に、ILC推進についてお伺いします。
 8月に海外行政視察でCERNとDESYの地元自治体と研究施設を調査してきました。改めて、ILC国内誘致の意義や、研究施設の概要を学ぶ有意義な調査であったと実感しております。
 一方、「日本政府が国内誘致の判断を来年までにしなければ、世界の物理学者はもう待てない、欧州に持ってくる」とまで言われました。
 まさに今が誘致実現に向けた正念場であります。今、ブームの将棋に喩えれば、『詰めの一手』を打つ段階に入っています。
 知事は、政府判断までのプロセス等について、産学政官の様々なネットワークを活かして積極的に働きかけてきたと思いますが、『詰める』までのシナリオ・作戦を、どう描いて取り組んできたのか伺います。また、誘致活動の手ごたえをどう感じているのか、併せて伺います。

(知事)
 まず、ILC誘致実現へ向けてでありますが、国の有識者会議の議論も終盤となり、また、研究者の国際的組織では、ILCの初期計画を20kmとして、建設コストを大幅に削減する計画が正式承認される見込みとなっていることから、ILC実現に向けこの1、2年が極めて重要な時期と考え、建設候補地として、ILCの理解増進や外国人等の受入環境の整備、加速器関連産業の振興を加速してきたところであります。

 また、東北が一体となってILCの実現を目指すために、鈴木厚人県立大学学長をトップとする東北ILC準備室を設立しまして、東北のマスタープランの策定等、誘致決定までに必要な具体的な準備を進めております。

 こうした地域の積極的な活動を背景に、地元国会議員の協力も得ながら、関係者が連携し、国等に対して、早期決定の働きかけを行ってまいりました。

 現在では、北海道東北地方知事会をはじめ、北海道・東北六県議会議長会議、東北市長会などからも要望を行って、さらには、全国知事会における国への提言・要望に、国際科学技術研究拠点の形成などが新たに盛り込まれるなど、その活動の輪は広がっており、政府に対して確実に実現への思いは伝わっているものと考えております。

 知事、ILC誘致は、岩手県がアジアの、そして世界の国際学術研究都市として貢献できる最大のチャンスであります。今から約900年前に藤原氏が平泉を建立したように、しかもシルクロードの最東端に。平成の今、知事、新たな岩手を創造するのです。
『心は熱く、頭はクールに』。トップリーダーとして冷静に戦術をくみながら、熱く政府に働きかけるべきです。改めて知事の覚悟を伺う。

(知事)千載一遇という言葉がございますが、委員ご指摘のとおり、平泉時代まで遡る1000年の歴史の中で、かつてなかったようなことが岩手を舞台に今起きつつあり、非常に歴史的な局面を迎えていると思います。
  
 工藤巌知事の頃から研究者の方々との連携を軸に、着実に進めてきたこのILC国際リニアコライダーの実現でありますけれども、後退することは一切なく着実に前進を続け、先ほど述べましたような運動の広がり、そして政府においても来年度予算の概算要求の中で前年の倍近い予算要求になるなど、これもまた着実に実現に向けて前進しているところと考えます。

 この1年が非常に重要な時期ということで、10年あるいは、工藤知事まで遡れば50年以上かけて築き上げてきたこの体制の中で、関係者の皆さんとしっかり情報の共有をして、一つ一つやっていくべきことを確認しあいながら、委員ご指摘のとおり詰めの作業を行ってまいりたいと思います。

(2)地元の受入環境整備の進捗と成果について

 欧州視察を通じて、大量の土砂処理、景観対策、シャトルバスやカーシェアリングなどの多様な交通の確保、国際化の受入環境整備やネットワークづくりなど、取り組むべき課題は多いと感じました。28年度プロジェクト研究調査事業費のうち建設候補地に係る水系状況、地表部への影響把握等に係る3千4百万円が翌年度に繰越されました。

 県民に対し、ILC建設に伴う環境影響を丁寧に説明することが求められますが、水文調査の現在の進捗も含めた環境影響調査の状況、外国人研究者の受け入れ環境の整備、加速器関連産業の参入支援の取組実績と成果、今後の対応について伺います。

(大平企画理事)
 水文調査についてでありますが、県では、ILCを整備するにあたり、建設候補地周辺の環境への配慮の観点等から、平成25年から平成26年には、環境アセスメントの基礎データを把握するための鳥類や植生の調査を実施し、昨年7月から本年6月においては、水収支や地下浸透量など、いわゆる水文調査を実施したところであります。水文調査については、地下トンネル坑内の湧出量の予測など有益な知見を得たところであります。これらの情報は、研究者に提供しており設計に生かされるほか、発行を予定しておりますQ&A集にも盛り込むなど地域住民の方々にもお知らせすることとしております。

 また、外国人研究者の受け入れ環境の整備についてでありますが、先進地調査、外国人との意見交換などを通じて、生活、医療、教育などについて、28年度は部局横断の副部長級研究会を5回開催するなど、具体の対応策を検討しているところであります。

 加速器関連産業については、28年度は技術セミナーや研修会など計7回、研究所視察等を2回行い、現在、いわて加速器関連産業研究会の会員が176団体となっており、これまで2件の研究開発、3件の共同研究を行っております。今後は、加速器関連産業に関心のある企業の掘り起こしによるすそ野の拡大と、研究所と企業、県内外の企業と企業のマッチング、企業連携等を進め具体の参入を支援してまいります。

3 復興事業について

(1)なりわいの再生について

 復興事業について伺います。グループ補助金等を活用した高度化スキーム貸付分の返済がすでに始まっております。貸付実績273件、137億9千8百万円に対し、28年までに返済開始している事業者は75件、全体の3割弱であり、多くの事業者はこれから返済が始まります。また、償還猶予をしてもらった事業者は既に8件あると伺っております。
 重要なポイントは、高度化スキームの元金返済が始まるまでに、会計リテラシーにより自らが冷静な判断できるようにすることであります。事業者が自発的に経営改善行動を取れるような支援を行うことが必要と考えております。

 28年度「主要施策の成果説明書」によると、被災企業者の経営力向上支援件数は残念ながら「D」判定でありましたが、これまでの取組みをどう総括しているのか。今後、本格的な経営再建を果たすため、会計リテラシーの支援を含め、どう取り組むお考えか、ご所見を伺います。

(佐々木復興局長)なりわいの再生についてであるが、県では、これまで被災事業者の早期事業再開を支援するため、商工会、商工会議所等商工指導団体と連携し、経営相談や専門家派遣事業等を実施してきたところです。委員から御指摘のあった、「被災企業者の経営力向上支援件数」の達成度がD判定となったことについては、復旧・復興の進展に伴い、相談内容が事業再開に関するものから、事業再開後の販路開拓等に関するものにシフトしている中、相談件数は前年度より増加したものの、目標値には達しなかったことによるものと考えております。

 こうした状況に対応するため、県では、被災事業者が直面している経営課題に的確に応えられるよう、相談対応の充実強化に取り組んでいるところ。その中で、小規模事業者を中心に、投資計画や運転資金管理など会計リテラシーに関わる相談が増えてきていることから、経営コンサルタント会社と連携した会計指導を行っているほか、国の専門的な相談機関等の活用を図っております。

 さらに、グループ補助金を利用した事業者への巡回指導を一層強化し、事業者が抱える課題に対して、迅速かつ的確に支援につなげる取組を進めており、引き続き、商工指導団体等と連携しながら、被災事業者が経営を軌道にのせるための経営支援について対応してまいります。

(2)移転跡地の活用・集約化について

 最後に、移転跡地の活用・集約化についてお伺いします。城内議員の一般質問において、買取面積348haのうち55%が事業化されていないとの答弁がありました。移転買取面積の筆数は約1万筆に及びこれらを部分的に交換しても、市町村の土地利用計画の実現は、ほぼ不可能と考えます。現時点で、移転元地の民有地と公有地を交換する場合の登録免許税減免実績は3件に留まり、手続き中の案件は9件と伺っております。

 買取対象地が宅地を基本に買取りされていること、移転跡地は災害危険区域に指定されていること、所有者不明土地問題などを踏まえ、復興・創生期間内に簡素な手続きにより土地の集約を推進する道筋を早急に示すべきであります。具体的には、土地改良法の換地や交換分合に準じた手法で公有地と民有地を集約できる手法を特別に認めてもらうよう、国に強力に働きかけるべきと考えますが、ご所見を伺います。

(佐々木復興局長)移転元地の活用・集約化に向けた土地の交換についてでありますが、被災市町村では、住宅再建やなりわいの再生を最優先として取り組んでいるなかで、移転元地を集約するための個別交渉による土地交換に取り組んでおりますが、多大な時間と労力を要しており、進んでいない状況にあります。個別交渉に代わる有効な方法としては土地区画整理事業が考えられますが、都市計画区域外では実施できず、また、手続に時間を要するなどの課題があります。

 円滑かつ速やかに元地の集約を進めるために、県では、土地交換に係る新たな制度や手法が必要であると考えており、国に対し、簡素な手続により地域ぐるみの土地交換ができるような制度や、被災地域の実情に即した現行手続の柔軟な運用について検討するよう、継続して提言・要望をしているところです。今後とも、市町村が土地集約を図る取組を支援するため、引き続き国に対し、制度や手法の検討を求めていきたい考えであります。